颯太は幼い頃からスイミングクラブに通っていたのをきっかけに、水泳部へと入部していた。


寛太が野球に目覚めたように、他のスポーツに興味を示すことのなかった颯太の泳力は、スイミングを辞める理由が無く、なんとなく通っていた程度のレベルだ。


冬場の水泳部の活動は、陸上部と共に長距離を走ったり、腹筋や腕立て伏せなどの体力作りが主だった。


おかげで冬のマラソン大会では大活躍をみせ、やはりここでも文武両道の名を広めていた。


一方、寛太はというと…
3年生の引退後、1年生のうちからレギュラーメンバーに抜擢されるも、試験の成績が悪かったり、
宿題の提出が遅れたりで居残り勉強をさせられることが多く、チームにとっては頭痛の種となっていた。


「あ〜、日沼兄!」

「!あ、はい。」

「なぁオマエ、ちっとは弟の勉強みてやってくれよ。」

「…はい?」


それは野球部の顧問だった。


「2年の先輩を差し置いて内野手にさせた俺が言うのもナンだが…アイツなりに努力してんだよ。」

「?」

「部活の後も自主トレしてるとかで…付き合わされてる奴も居残り勉強に巻き込まれて大変らしいんだ」

「…はぁ…」

「家に帰ってもバタンキューじゃないのか?」

「そーですね。」

「アイツのことは悔しながらにも誰もが認めてる。でも“野球部は馬鹿ばっかりだぁ”なんてレッテル貼られる前に、どうにかしなきゃなぁってな。」

「俺の言うことなんか聞くわけないじゃないですか。」