戸惑いながらも彼は笑いながら話しかけた。

「お前、名前は?」

「芹沢歌南…」


「芹沢な!覚えとくわ!!ハンカチ今度返すから!」

壊れた自転車を豪快に起こすと、彼は風のように去っていった。


「…あっ待って……カゴ!」


行っちゃった…。



「………どうしよう。このカゴ。」

多分もう、二度と出会うことはないよね。

でも、でも…。
勝手に捨てるわけにもいかない。

仕方なくひしゃげたカゴを拾って、玄関の片隅に置いた。
必要なら、取りにくるはずだから。


それより陽が昇りきる前に、家に帰りたい。

そして灯夜君に手紙を書くんだ。


私には灯夜君しかいないの…。