チェリーガール

「あー。一時はどうなることかと思った。喋れなかったもん!」


声を発すると、夜空にその声が吸い込まれたかのような気がした。


「ダウンするなんて珍しい。ひょっとして昨日は徹夜で勉強?」


「うん、した。 さすがは、すだち。何でもわかるんだね」


「へえ。やるじゃない。心愛もやる時はちゃんとやるんだ。で、どうだったの?」


「難しくて考えれば考えるほどパニックになった。全然わかんなかったよー。予想はしてたけど、予想以上に試験ボロボロだった。もう適当にマークシート塗りつぶしたよ。記述式でなくてよかった。解答用紙真っ白のまま提出するの嫌だもんね」


「そう。でも、良い結果だといいね」


私とすだちのやり取りをそばで聞いていた
たまきが間に割って入って肩を組んできた。


「私も仲間に入れろー!!」


なんだかそれが面白くて私とすだちは笑いあった。


「なーに、笑ってんの? それより、お腹空いたよー。模試も終わったことだし、これからどっか寄ってご飯でも食べて帰らない?」


たまきの提案にすだちが苦い顔をした。


「え? 何言ってるの? 模試が終わったら、その日のうちに答え合わせをするんだよ? 模試は復習が大事なんだから。間違えた箇所をチェックして本番に備えるんだよ」


「答え合わせ? んなの、したことない。終わったら終わったで、ほったらかし。答え合わせなんていつでもできるじゃん。今日じゃなくても……」


「今日じゃないとダメなの! 今日が一番吸収率が良いの! 今日やると効果的なの!」


「そんなむきにならなくても……。じゃあ、心愛は……?」


「私、行く! お腹ペコペコなんだ」


「わかる~♪ じゃ、行こっ!」



▼ ▼ ▼ ▼ ▼


「だーかーらー、あれは碧君バカにされて怒ったんだってー。なんでわかんないの?」


和風ハンバーグの大根おろしをお箸で口に入れながら、たまきが主張する。


ファミレスの窓際の席からは、予備校の飾り気のないシンプルなビルが筋向いに見えた。



「ここまで言ってんのにわかんない? 鈍いよ。前からバカだと思ってたけど、ここまでバカだとは思ってなかった」