グリーンライダー

 人間の記憶とは、実に曖昧模糊なものだ。
 俺はハリーに自分のことを話していて、そのことを改めて痛感した。
 朧気(おぼろげ)な記憶は、やがて自分に都合の良かったであろう思い込みに変動する。
 考え始めると自己崩壊を起こしかねないのでやめておくが、俺という自己が、思い込みと錯覚の上に成り立っていることを、肝に銘じておくことにする。

 俺の人生を語る上で、最も簡潔かつ的確なのは、普通という二文字である。
 だが、無限の孤独を少しでも埋めるために、少しの脚色はつけるとしよう。

 俺が産まれたのは、町が一足早くクリスマスを意識し始める季節。
 落ち葉舞い散った後の、冬の始まりの頃であった。
 予定日を一日過ぎただけの、健康優良児。
 それが俺である。
 一部の若い親たちにみられる虐待などにもあわずに、俺は赤ちゃん時代を過ごした。
 両親がいい歳だったこともあるが、特に何もなかったように思う。
 正確なことは判らない。
 保育所、幼稚園と進み、同世代の友達と仲良く成長する。
 この頃で覚えていることといえば、溝に落ちて何針か縫ったことぐらいだ。

 こんな平凡そのまんまな話を、ハリーは楽しそうに聞いていた。
 それを見て俺は、平凡や普通という概念が、自分の周りにしか通じないのを感じた。