グリーンライダー

 「魂で?」
 俺は思わず聞き返してしまった。
 「そうです。先ほども言ったように、私はもう肉体的な死を迎えています」
 「もしかして俺も、魂で会話を?」
 再び聞き返していた。
 「そうです。ここは死後の世界の手前。魂の世界なのです」
 俺は生返事を返す。
 いきなり言われてもよくわからない。
 「あなたは少し迷い込んだだけで、いずれまた来るかもしれません」
 また俺は生返事。
 よくわからないものは、わからない。
 辛うじて、俺がまだ死んでないことは判る。
 それだけ判れば、問題はない。

 こうして、ハリーと俺の数週間に渡る生活が始まった。
 数日一緒に暮らしてみると、如何に何もすることがないかが身に染みる。
 朝起きて朝食を食べて、昼食まで何もすることがないのだ。
 電車に揺られ、会社でバタバタしている内に昼食を食べ逃すこともない。
 何度も夢に見た自由な時間。
 いざ時間が出来ると、ただ暇なだけである。
 自然に元に戻るのを待つ身としては、どうすることも出来ない。
 ハリーと同じように過ごすしか、俺には選択権がなかった。
 ハリーの一日の過ごし方は、全くといっていいほど毎日同じことの繰り返しであった。
 平々凡々な俺の暮らしよりも、変化が皆無である。