「足がすくんだなんて言い訳だ。俺は──」

 ライカは悔しくて顔を歪ませていたが、ふと聞こえた微かな声に視線を上げる。

「何がおかしいんだよ」

 喉の奥から絞り出すような笑みをこぼしているベリルを睨みつけた。

 こんな時に笑うなんて、オヤジのことが嫌いだったのかよ。

「奴が死んだのは二年前だと言ったな。それならば歳は五十五か」

「それがどうした」

「私と出会った頃のような動きは出来なかったろう」

 ライカはそれにハッとする。

 どんなに素晴らしいと思える動きでも、セシエル自身にとって、それは輝ける時代のものとはほど遠いものだったに違いない。