「え、うそ」

 目の前で二度もの逃走に、伸ばした手は遠ざかる車に虚しく向けられる。

 ライカは信じられない気持ちを抱えて依頼主の男に電話をかける。

<また逃げられたのですか>

 電話の向こうの依頼主はやや呆れたような口調だ。

「隙を突かれたんだ」

<仕方がありませんね。奴の居場所が解ったらまた連絡します>

「頼むな」

 通話を切ってハンドルを握り、砂色の四輪駆動車はゆっくりと発進した。

 とりあえずベリルの車が走り去った方向に走らせる。

「マジかよ」

 二度も間抜けな逃げられ方をしたライカは苛立った。