KISS AND SAY GOOD-BYE






3週間の研修を終えた俺と坂田店長は一旦、新星MUSIC日本支社に寄り、研修終了の報告に遣ってきた。



いつも何気無く見ていた社内の風景だったが、久し振りに遣ってくると、なんとなく違った風景に見えてくるから不思議だ。



3週間、ずっと殺風景な研修道場の会議室に缶詰め状態だったから、受付カウンター横の巨体な花瓶に活けられている花たちも、一際色鮮やかに目に飛び込んでくる。



俺と坂田店長は、社員証をかざしゲートを押して社内に入り、エレベーターに乗って5階の社長室に来ていた。



「社長は?」



『ハイ、中でお待ちになられております。』



と、社長秘書がニッコリと微笑んだ。



ノックをした後、



「失礼します。」



と言って扉を開けたら、90度の礼をして、



『只今、研修から戻って参りました。』



と、坂田店長があいさつをする。



『いゃ~、ごくろうさん!

二人とも、まぁ、こっち来て座りなさい。』



と言いながら、フカフカのソファーに座り、対面の席に促されて俺と坂田店長も腰掛ける。。




『で、どうだった!?初めての研修は。』



「一言では言い表せないくらい、深くて濃い3週間でした。」

『それに、私は少し体力の衰えまで感じてしまいました。』



『ハハハ、何言ってるんだ坂田君、まだ33才じゃないか!

私と殆ど変わらないのに情けない事言うんじゃないよ。

頑張れ頑張れ。ハハハ…。』



「それにしても、夜間走行は大変でしたよ。

渡された地図は適当だし、8ヶ所のチェックポイントはなかなか見付からないし、30Kmの距離を6時間以内に戻らなきゃと気持ちばかり焦って、山の中で迷子になりかけてましたよ。」



『判断力を鍛えるために、敢えてわかり辛い地図にしたんだよ。

それでも、地形をきちんと把握すれば、そんなに難しくは無いんだけどねぇ。

遭難さすわけにもいかないしね!』



なんて言いながら、茶目っ気たっぷりのウインクをしてみせる。



「最後の電話報告はどうでしたか!?」



『まさに、桧山君の決意表明を聞けて満足してるよ。

坂田君の方は、やる気が伝わってきたし、研修の大変さも伝わってきたよ!

最後の方なんか、悲鳴に近い勢いで報告してくるんだもん。』



『社長~‼

それは言わないで下さいよ。

ホントに大変だったんですから。

大阪支部から来ていた次長さんなんか、大阪支部長に電話報告するときには、涙ボロボロ流しながら報告してたんですから。

あれ見た後に、私が淡々と電話報告していたら、へんな空気になっちゃいそうで、取り敢えず大きな声で唸るように感極まった感じを出してみました。

酷かったですか!?』



『こっちは聞いていて楽しかったよ。

毎回、色んな人が研修先から電話報告してくるけど、人それぞれ個性が出てて面白いんだから。

だから、本社から研修に行った者は、各部署の課長や部長でなく、私が受けることにしたんだから。』



「なんか、今になって恥ずかしくなってきました。

だいぶん熱くなってましたよね…私。

勿論、録音なんてしてませんよね社長!?」



『桧山君の電話報告は、素晴らしかったよ。

勿論、録音なんてしてないけど、今思えば録音しとけば良かったと思うよ。』



「社長~、駄目ですよ~‼」



最終日、研修修了の最終審査として行われた、上司への電話報告の内容を思い出してまたまた赤面する桧山であった。



『今日は、君達これからどうするんだい!?』



「私は、取り敢えず営業3課に顔を出して課長に報告を済ませたら、帰宅して1日のんびりします。」



『わたしも、取り敢えずスタジオに顔を出して本堂さんに挨拶をしてから家族の待つ家へ帰りたいと思います。』



『そうかそうか!

じゃあ二人とも気を付けて帰るんだぞ。

明日は、通常通りに出社宜しく!』



社長にお辞儀をしてから、二人で社長室を後にした。