『ねぇ隆一くん、私も貴方と一緒にバイトしたいなぁ!』



引き抜いた俺の腕に、またしても両手で抱き付き胸を押し当ててくる。



俺はもう片方の手で、藤浪のほっぺたをムギューと引っ張りながら、笑顔で腕を引き抜きながら



「藤浪はダ~メ‼

ボディーガードをゾロゾロ引き連れてバイトする気か?

それに、回りの社員が気を使うっつうの!」



『も~~‼

隆一くんと一緒に居たいのに…。』



「藤浪は、それこそお母さんと一緒にファーストレディーの集まるパーティーでも行って、国会議員の奥様方と交流会に参加したらどうなんだ?」



『あんなつまらないパーティーになんか行きたくないわよ。

聴いててヘドが出るくらい、うわべだけの褒めあいやお世辞の会話なんだから。

パワーバランスを見ながら、今は誰の奥様にゴマをすれば、自分のところの亭主の政党に有利になるかとかさ、聴いてて嫌になるんだよ。』



「仕方ないさ!

そういう世界で生きているんだから。

今から慣れておけば、いずれ役に立つんじゃねぇ!?」



『適当なことばっかり言って!

役に立つわけ無いじゃん!

それより、隆一くんの奥さんになりたい!』



「前にも言ったけどさ、俺は在日韓国人なんだぜ!

お前の両親が許すわけないじゃん!

まぁ、その前に俺がムリ!」



『ヒドイ、ヒドイ、ヒドイ!

和田くん、何とか言ってよ。』



「諦めなよ!

桧山は、今の彼女ラブなんやから!

超美人やぞ!

そやなぁ…元アイドルで、今は女優やってる武内美奈子にソックリなんやで!」



『マジで~‼

隆一くん、わたしじゃ…』「ダメだってば!」



『ハハハ!

藤浪は、ほかを探しぃ!

人間情報科学科以外にも、良い奴居ると思うぜ!』



「そうだ!

俺のツレを1人紹介してやろうか?」



『もう良いわ!

女の子の気持ちを分かって無いのね!

好きな人から、別の人なんて紹介して欲しくないんだから!』



「だよな!

まぁ兎に角、俺はそろそろバイトに行くわ!

それからさ、来週の10日の日曜日なんだけどさ、昼から渋谷の代々木体育館でヘアコレクションの大会があってさ、俺がモデルで出るから見に来てくれよな!

第二体育館の方だから、間違えないでな!」



『あたしも行く!』



『俺は無理やなぁ!

その日はこいつと兵庫の実家に居るからなぁ。』



『俺は行けるから、彼女も誘ってみるわ!』



「宜しくな!

じゃあまた!」



『おう、バイト頑張れ!』



『オートバイの運転気を付けなね。』



「ありがとう。」



『また後でメールするわ!』



「OK!」



『隆一くん、バイバイ。

またねぇ!』



「ほ~い!」



後ろ手に手を降り、バイクのキーをクルクル回しながら、学食を後にした。