俺達は、高山社長のご厚意でファーストクラスの機内で、ゆったりと空の旅をしている。



機内で出されるコーヒーもまた格別で、香りを楽しみながら美華に簡単なハングル語を教えてあげていた。



通路を挟んだ隣に座っているチャンス君が、



『桧山さん、本名は何て言うのですか?』



と、ハングル語で尋ねてきた。



だから、私もハングル語で、



「黄 隆元と書いてファン・ユウォンと発音するんだよ。」



と、教えてあげた。チャンス君は、色々と話しかけてきて、二人でハングル語での会話を続けていたら、



『リュウ、さっきからひどい!

私、二人の話分かんないし!』



「ゴメンゴメン!

チャンス君と洋楽の話で盛り上がっていたんだよ。

もうすぐ中学生になるけど、俺より洋楽に詳しくて驚いたよ。」



『それにしても、私をほったらかしってどういうことよ?

リュウ最近冷たいよ!』



「ホントゴメンな!

機嫌直してくれよ。」



と言いながら、周りをチラッと見てから美華のホッペタにチュッ!とキスをした。



『なっ!』



っと、小さな声を出した美華だったけど、お陰で直ぐに機嫌を直してくれた。



「今回は、社長のご実家にお世話になるんだって。」



『江南(カンナム)ってところに在るって聞いたけど、江南(カンナム)って!?』



「ソウル市内を東西に流れる漢江(ハンガン)って川が在るんだけど、その漢江(ハンガン)を境に南側に位置するところが江南(カンナム)って言うところなんだよ。

ソウルも、70年代以降急成長をしてきて、区画整理なんかや急速な経済改革のお陰で、今じゃ江南(カンナム)って言ったら、お金持ちが集まる富裕層のステイタスな居住地区みたいになっているんだよ。」



『田園調布みたいなもん?』



「そうそう!

成城や田園調布みたいに、金持ちが集まっているんだ。」



『それって嫌味?』



「まさか!

世田谷区の中でも、成城って言ったら高級住宅街って有名じゃん!

美華が住んでるからとかじゃなく……」



『まぁ、確かにね!

じゃあ、高山社長のご実家も凄いの?』



「実際に見たことは無いんだけど、チャンス君が言うには無駄にデカイ家らしいよ。」



『ハハハ……

無駄にデカイねぇ~♪

私んちみたいな感じかも。』



「美華ん家って、無駄にデカイの!?」



『私が生まれてから今日まで、入った事の無い部屋がいくつか有るわ!』



「さすがホームセンターTAKIMOTOの会長宅だ!」



『夜なんか、怖くて3階の部屋には行けないんだから。』



「3階って、確かビリヤードルームやアトリエ何かが有ったよなぁ…。

確かに夜に行くには怖いかも。」



なんて、美華ん家の話で盛り上がっている内に、飛行機は仁川(インチョン)国際空港に到着した。



一昨年の2001年3月に完成したばかりの新しいこの空港は、以前の金浦(キムポ)空港に比べたら、はるかにでかくて綺麗な空港だ。