お年玉の入ったポチ袋を、高山社長の奥さんに渡してから、



「ところで社長、先程何か話が有るって仰ってましたが、やっぱりケータリング会社新設企画の件ですか?」



『あぁ、そうだった。

その話だよ。

実はな、アメリカのケータリング会社が、関東に進出して来ているのは知ってるかい!?』



「はい、EACH AMERICAN TASTE グループですよね!

その名も、
E.A.T.カンパニーですから、直ぐ覚えちゃいましたよ。

ここが、目下のライバルですよね!?」



『そう思っていたんだが、実はな……、先方から提携の話が転がり込んできてな!

あそこのオーナーは、食品加工工場も持っているし、独自の牧場や農園、それにレストラン経営もしているから、ノウハウやマニュアルをそっくりそのまま教えてもくれるって言ってきてるもんだから、その話に乗れば煩わしい作業が省かれるんじゃないかって思ったりもしてるんだよ。』



「高山社長って、いつからひよりみになったんですか?

そんなんでは達成感も無いし、アメリカの企業との提携は、いずれ軒下を貸して母屋盗られるじゃないけれど、吸収されてしまう可能性だって有るんですよ。

生意気な様ですけど私は反対します。

それに、もし社長が提携の話を進めるのであれば、もうバイトも辞めさせて頂きます。

生意気な事を言って失礼しました。」



『…………、やっぱ俺が見込んだだけは有るな!

桧山君、きみを試してゴメン。

今のは嘘っぱちだから。

提携の話なんて来てないし、これから一番のライバルになる相手だろうな!』



「なっ!

嘘なんですかぁ~、良かったぁ~!

びびったぁ~!

もう、社長が変なことを言うから、悲しくなったじゃないですかぁ~!」



『いやぁ、提携の話なんて出たら、普通の会社員なら楽して利益が見込めるから、喜ぶんだけどなぁ~。』



「冗談がきつすぎますよ。

私は、1アルバイトにすぎないから会社の方針に従うしかないって言うか、言われた事だけ遣ってれば自給分はお金が頂けますけど、私はそんなアルバイトになんてなりたくないし、それなら私じゃ無くて誰でも良いじゃないですか。

私が頑張れるのは、社長の遣り方がかっこ良くて、憧れる存在だからなんですから。

もう少しでイメージ迄壊れかけましたよ。

それでは、ケータリング会社新設企画は、今まで通りの方向性で1から積み重ねて築いていくんですよね!?」



『その通り!

でも、これで桧山君の本気度が見れて良かった良かった!

ほんと試して悪かったよ。

ところで、君からも何か話が有ったんじゃなかったかい!?』



「そうでした。

さっきの話で忘れかけてましたよ。

実は、ケータリング会社を新設するにあたって、1つ思い付いた事なんですが、『何だい?』…えとですね、1つの会社で一斉に全ての業務を担っていくのではなくて、ケータリング会社自体を普通の会社の部所みたいに細分化して、縦と横で繋いで行くと、もっとスムーズにいくんじゃないかと考えて、そしてそれをすればどんなケータリング会社よりも充実して幅広いニーズに応えられる会社が出来ると確信しています。」



『ほう……それで具体的な方法とはどんな事かな?』



「いたって簡単な事なんです。

配達も遣ってる和食のレストランを1店舗作って、同じように配達を遣ってる洋食のレストラン、韓定食のレストラン、と中華や宮廷料理のレストランと、色んな種類のレストランを作るんです。

普通のレストランと違うところは、店内で食事するのではなく、出張料理人が料理を作りに行くか、作った料理を配達して経営を成り立たせるだけなんです。

大きなパーティや立食パーティなんかだと、各レストランから作った料理を配達するか現地に行って調理する方法をとれば、色んな種類の料理が目の前に並ぶと言う具合です。

これなら、ケータリング会社自体を難しく経営していくよりも、無理のない経営が出来ますし、色んな料理を提供できます。」



『なるほど?こんなに簡単に答えが出ちゃったのか。

さすが桧山君だな。

この遣り方は、私も思い付いていたんだよ。

でも、君達から色んな意見も聴きたかったので言わなかったんだがね。

目の付け所が私と同じとは参ったな!

それじゃあ、君の意見を企画書にして3日の会議までに作ってこれるかね?』



「はい、大丈夫だと思います。

美華と、アッいや滝本さんとデートだったんですが、何か拗ねちゃったから、デートどころじゃ無くなっちゃったから、時間は充分有ります。」



『ハハハ……、何か悲しすぎるね正月早々から。』



「実は、棚橋さんは私の最初の女性で、それを知った滝本さんが…………、それで…………だから、…………なんです。」



『成る程ねぇ~!

世間は狭いから。

こればかりは、私も口を挟めそうに無いな!

時間を掛けて、誠意を持って誤解を解いていかないとな!

頑張れ、私も応援してるから。』



「応援だけですかぁ…。

はい、頑張ってみます。」



『若いって良いなあ♪』



完全に他人事を楽しんでいるみたいに見えるんですけど…………



ハァ……!