「ようこそ、アリス」

塀の上でにやにやとこっちを見下ろす男と目が合った。

ピンクと紫色のストライプ模様の髪の毛で、見るだけでくらくらする。

「あなたは、誰?」

「俺はチェシャ猫だよ。アリスを導く猫さ」

「……じゃあここはどこなの?」

「倒錯の国さ。望みの叶う国」

「倒錯なのにどうして望みが叶うのよ。叶うとしてもさかさまに叶ってしまいそうだわ」

チェシャ猫は何も言わず、にやにやと笑った。

呆れてため息が出そう。

「いいわ。でもあなたは導く役目があるんでしょう?私はどうすればいいの?」

「別になにもしなくてもいいんだよ。なるようになるさ」

「いい加減ね。とってもいい加減。目的地がないとどうしようもないわ」

「ならアリスは行きたいところがあるの?」

「別に、行きたいとこはないけど……」

「それなら問題ないじゃない」

「っじゃあお茶会にでも行く!たしかそんな話しもあったはずだから」

「いってらっしゃーい」

チェシャ猫はのんきに手を振ると忽然と消えてしまった。