Mに捧げる

格の違いをまざまざと見せつけられた昌彦は、しょんぼりとした顔で頭を掻いた。


昌彦が冷静な精神状態ではないことを考慮した上での判断だったのだろう。


常日頃、正樹は麻雀における騎士道精神を重んじていた。


女子供初心者には優しく、それが彼の主義でもあった。


どちらにしろ、自分が昌彦に惚れる日は永遠にやって来ない。


父親の端正な横顔を見つめながら、確信めいたものを都は感じていた。


『嫁になんかいかなくてもいいんだぞ』昌彦が帰宅した後、正樹はおもむろに口を開いた。


柄にもなく、たわいのない少年の言葉を真に受けたらしい。


『昌彦は駄目だな。いざという時の冷静さに欠ける』そう言って、首を捻る父親の顔が妙におかしく見えた。


冷静さに欠けるも何も彼はまだ中学生なのだ。


『私は誰とも結婚しないよ』都はくすりと笑った。


正樹は満足そうに頷いて、都の頭を撫で回す。


あんなふうに、頭を撫でて貰うことはこれから二度とないんだ。


そう思うと、足元から崩れ落ちような心細さに襲われた。


胸の底で、冷たい風がびょうびょうと吹き荒れている。


父親がいなくなった世界に、何の意味があるのだろうか。


都は煙草の火を揉み消し、テーブルの上に麻雀マットを広げた。


そうした後に、アタッシュ型の牌ケースからサイコロを取り出す。