Mに捧げる

『私、末永正樹の娘です』そう言って、相手の反応を伺う。


すると、初老の男性が息を呑む気配がした。


その様子に手応えを感じ、都は無意識に背筋を伸ばす。


『末永君の娘さん?どうしたんだい?お父さんは?』初老の男性はひどく驚いているようだった。


都は深呼吸して、瞼を閉じる。


死に化粧を施された父親の顔が、脳裏に浮かんでは消えていく。


それはあまりにも美しく、悲壮な死に顔だった。


『今朝、亡くなったんです』そう告げた後、都は嗚咽を吐き出した。


白装束に身を包み、棺に収められた正樹の顔はまだ生きているようで、死んでいるとは到底信じられなかった。


眠っているような穏やかな表情に、また明日も会えると信じて疑わなかった。


枕経も出棺の儀式も映画のワンシーンを見ているようで、どこか現実味がなかった。


けれど、自分は今この瞬間、父親の死を認めた。


二人で食事の準備をしたり、枕を並べて眠る日々を、永遠に手放したのだ。


『都ちゃんは今どこにいるんだい?』掠れた声が聞こえた。


『父のアパートです』都は涙を拭って応じた。


『そうか、わかった。今から美佐子をそっちに向かわせるから』


これが『M』との出会い。


麻雀の師匠にして、母親代わりになってくれた女性との出会いだった。