Mに捧げる

正樹には両親は疎か親族すらいなかった。


必然的に葬式費用は母方の祖父母が支払うことになったのだが、それについて由香里は不満を漏らしていた。


再婚相手の手前、そういった態度を取らざるおえなかったのかもしれないが、当時十三歳だった都には考えも及ばない。


母親が憎らしく思えて仕方なかった。


正樹の死を蔑ろにした由香里の態度は、娘の存在を否定しているのと同義だ。


それ以前から祖父母の元に預けられた都にしてみれば、母親の存在などあってもなくても同じこと…。


一度に両親を失ってしまったという喪失感が都の全身を支配した。


気づいた時には正樹の遺体が安置されていた斎場を飛び出し、あてどもなく走り続けた。


孤独と失望がないまぜになり、道路を行き交う車のヘッドライトがぼやけて見える。


明日の葬式も同様、別れを惜しんでくれる親族もなく、正樹の遺体は焼かれてしまうのだろうか。


あまりにも虚しい、と都は思った。


父親の死をもっと多くの人に知って貰いたい、そんな衝動に駆られた。