真理亜の表情を見る限りでは、祝いの言葉など言うべきことではないのかもしれない。


 だけど、ここは礼儀の一つとして深青はあえて言葉を述べた。


 そして、それがこの学校に通う生徒たちを見て、学んだ一つのことだった。


 私情よりも、まずは礼儀や礼節。


 阿部家という家柄の後継者となる真理亜には、それが正しいことだと深青は判断した。


「ありがとうございます…。

だけど、私はそれを素直に受け取っていいのかと………。

もちろん、血のつながりのない私を後継者にと、そこまで言ってくれる義父には感謝しています。

そして、そこまで言ってくださるのだから、その期待に応えたいっていう気持ちもあります。

だけど―――…」


「友恵さんのことを考えると…ということですか?」


「………えぇ…」





 確かに、血のつながりのない自分。


 それも、阿部家の後継者という立場は、かなりの重圧に違いない。





 深青はドレスを見つめたままの真理亜の肩にそっと手を置いた。


「だけど、友恵さんもおっしゃってたじゃないですか。

もし、真理亜さんが友恵さんに申し訳ないとお思いなら、この用意してくださったドレスを無駄にしないことが一番なのではないですか?」