懐かしい顔に会ったのと同時に、深青の頭の中には『なぜ?』という疑問が浮かぶ。


 だけど、そんな疑問は、すぐさま予想もしていなかった人物の登場により、すぐさま消え去った。


「あら。

おかえりなさい、深青」





 突然、聞こえた声に深青はびっくりして声が聞こえてきたほうを見る。


「え……? お母さん?」





 いつもは勤めに出ていて、この時間にはいないはずの母が茶菓子とお茶をお盆に乗せて、キッチンから現れた。


「え? どうして? え?」


「うふふ。

実は、今日は松下さんがお見えになるって聞いてたから、仕事を早めに上がらせてもらったの」


「え? 

お母さん、今日松下さんが来られること知ってたの?」


「ええ。

一週間ぐらいにお電話を頂いていたから」


「そんなのこと、私全然聞いてない!」


「あら、そうかしら? 

私、言ってなかった? 

唯香は知ってたわよね?」





 松下さんの前にちゃっかりと座り、母が出した茶菓子に手を伸ばしていた唯香は、「うん」と茶菓子に目を向けたまま頷く。