「今、誰かに頭撫でられた気がするー」
「え?私も私もー」
「サクラ様かもね?」
恵子がそう言った。
「でもサクラ様は悪い子は守ってくれませーん」
「えー?どんなことしたら守ってくれないのー?」
頬を膨らませた子供たちから不平不満の声が上がる。
「まず好き嫌いをしてはいけませーん。人参、ピーマン。食べない子は守ってくれませーん」
そうだな。好き嫌いは良くない。私の時代は食べることに苦労したのだ。
「えー?サクラ様ケチー」
ケチとはなんじゃケチとは。
恵子が園児たちの手を握り高台から道路へ続く階段を下り始めた。
「あとは先生を恵子ちゃんって呼ぶ子も守ってくれませーん」
アハハ、アハハハハ。
それはそれは私は随分な神のようだ。
遠くなる元気な声を、サクラはずっと見守り続けている。

健やかに育てよ、我が子たちよ。

高台に咲き誇る桜の木の下、小さな祠。
古風な髪飾りで結った長い髪と、歪な巫女装束が風に揺れ、その神は愛した大地とそこに住む愛した子らを見守っている。
変わらぬ空と、変わりゆく大地を見つめている。

おわり。