あれから何年経ったのだろう?
サクラは眼下を行く人々を見守り、自らの名が付けられた桜の木に身を預ける。
ガヤガヤと辺りが賑やかになる。
元気な子供たちの声が聞こえてくる。
ああ、今年もそんな時期か。
毎年、桜が咲き誇る季節になると近くの幼稚園という施設から子供たちがやってくる。
それはサクラの数少ない楽しみの一つだった。

「はーい、みんな一列に並んでー」
子供たちに先生と呼ばれる保母がわいわいと騒ぐ子供たちをたしなめる。
「はーい」
良い返事じゃ。子供たちは保母の言うことを良く聞く素直な子供たちだった。
「サクラ様、おひさしぶりです」
まずは保母が祠に手を合わせた。
おうおう、良く見れば恵子ではないか。
そういえば恵子もこうやって昔訪れたのう。
こんなに立派に大きくなりおって、時の流れは早いものじゃ。
「みんなー。ここにはサクラ様って神様がいてね、みんなを守ってくれてるの。お礼をしてねー」
恵子の言葉に子供たちは次々と見様見まねで「サクラ様、ありがとうございます」と手を合わせていった。

「健やかに育てよ」
春の木漏れ日、桜咲き誇る木の下、サクラは一人一人にそう声をかけ、子供たちの頭を撫でていく。
少年が自分の頭を不思議そうにポンポンと叩いた。