その夜。
「これを着ていきなされ。その服じゃまだ寒いやろう」
老婆が巫女に白と紅の着物を手渡す。
「おばあちゃん、これは・・・」
「村のみんなで少しづつ金を出し合って作ったんじゃ。見様見まねで作ったから形も色も若干変わってしまったがのう」
「そんな・・・そんな・・・こんなにお世話になったうえに、ここまでしていただくなんて・・・」
「ええんよ、ええんよ。あんたは村の娘じゃ。私らの子供じゃしのう」
その優しさに巫女は声も無く泣き、新調された歪な巫女装束に袖を通す。
「おばあちゃん、ありがとう、ありがとう・・・私はこのご恩に神に仕える巫女として応えたいと思います。ここは八百万の神が住む国。おばあちゃん、神は居ますよ。この土地に神を呼びましょう」
歪な巫女衣装。
長い黒髪を束ねあげる竹細工の髪飾り。
巫女は喜びの涙を流しながらも微笑む。
その瞳は決意に満ちていた。

長い冬を越えた村、春の始まりの夜。
巫女の呼びかけにより村人が集合していた。
何事かと民たちが見つめる中、高台の遥か上空に浮かぶ月を見つめ語り始める。
「まずは今まで余所者であるにもかかわらず私を本当の娘のように可愛がっていただいて本当にありがとうございます。どのような言葉を用いてもこの思いは伝えきれぬほど感謝しています」
振り返った巫女は空に浮かぶ月よりも凛と民たちの目に映る。
「そんな巫女様。もったいないお言葉」
「巫女様は村の、ワシらの娘じゃ、当然じゃ」
手塩に育てた娘たちを賊に連れ去られた、残された者たち。
その娘たちに育まれるはずだった愛情は、余所者ではあるが年頃の近い巫女に余すことなく育まれたことを巫女は知っている。
自分を余所者と言ったのは間違いだったかもしれない。
この心優しき人達にとって、きっと私は本当に娘だったのだろう。