どこの子だ?
ああ、巫女か?
巫女だから霊の自分が見えるのか?
いやまて、葬式に巫女?
驚きのほかに理解しがたいと、複雑な表情だ。
「くくく」
なんと声をかければよいか迷っていたが、サクラの口からは思わず笑いが漏れてしまう。
「お嬢ちゃんときたか。あはは。おまえが子供の頃によう頭を撫でてやったのに、この恩知らずが。あはは」
巫女装束。撫でられた頭。それで思い当ったのか、ますますの驚きの表情を見せる兵吾。
「ああ・・・まさか、サクラ、さま・・・?」
「いかにも。私がサクラだ。私がこのような小童の姿で驚いたか?」
「いいえ、けしてそんな・・・」
我が子の詰まる言葉が愛おしい。
「嘘をつくでない。みな私を最初に見たときはそういう表情をする。私がこの地に身を捧げたのは、うむ、14か15か、正しくはわからぬが歳としてはそのあたりでな。その時の姿のままなのじゃよ」
「ありがたや・・・」
膝をつきサクラに向か手を合わせる兵吾。
「気を使うでない。おまえに残された時間は少ない。急ごう、酒を持ってついてまいれ」
兵吾の仏前に供えられた2つのコップと日本酒。
この地方独特の風習でこうすると旅立ちの瀬戸際にサクラと酒を酌み交わし旅立てると言われ続け、いまなおそう信じられ続いている風習。
「その酒に付き合おう。行くぞ、兵吾。良い季節じゃ、桜の下で花見酒と洒落込もうじゃないか」
サクラは高台を目指し歩き始めた。
兵吾も持てぬはずの酒とコップを持ち、サクラに続く。

見上げる高台の桜は見事に美しく咲き誇っていた。