その男の心が折れた。
根元からボッキリと、二度と繋がるはない。
揺さぶられたこの国。
大きな被害を受けたこの地。
人の手によって作られた悪魔が漂う宙。
人の手によって作られた悪魔に侵略されたこの地。
出荷制限、作付制限。
聞き慣れぬ言葉が農業に生きた兵吾の心を折った。
「育てるごどもできねーのが・・・」
その言葉を最後に、兵吾は自らの命を絶った。

その兵吾の葬儀が行われている、あの震災を乗り越えた古い屋敷の玄関をくぐる。
悲しみの声が、すすり泣く声が聞こえる部屋。
サクラはその中に兵吾の姿を見つけ声をかける。
「・・・兵吾」
その男の人生を物語る深く刻まれたしわが驚きの表情で大きく伸びる。
驚くのは無理もない、兵吾は誰にも気づかれるはずの無い霊体になっているのだから。
その証拠に兵吾の葬儀に参列している人間の中に、今の兵吾に気付いている者はいない。
「お嬢ちゃん・・・おじちゃんが見えるのかい?」
なぜお嬢ちゃんという言葉が出てしまうほどの子供がここにいるのか?
いや、お嬢ちゃんとは言ったが、その姿には美しさと懐かしさも感じる。