福島県中央部の地方都市。
その片隅の地。
桜咲くとある高台に春の優しい風が吹く。
風に揺れる古風な竹細工の髪飾りと歪な巫女装束。
花が咲く心躍る季節のはずだが、サクラの気は暗雲が立ち込める空のように重い。
「ふぅ・・・そろそろ迎えに行くか・・・」
気はすすまぬがな・・・
誰にも聞こえぬ声は春風に連れ去られる。
重い足取りで歩きだすサクラ。
階段を下りる背中に神の後光などはなく、ただただ悲しげな今にも泣きそうな子供のような背中だった。

引きずるような重い足取りで向かう先。
そこでは葬儀が行われている。
田上兵吾は62年前に、この地に生を受けた。
戦後復興、高度経済成長で飛躍的に近代化するこの国。
若者はみな首都を目指したが、兵吾は先祖から代々受け継がれた農業を生業とし、この地で汗を流し続けた。
不作の時期ももちろんあった。
害虫にも散々悩まされた。
思いもよらぬ雹に収穫間近の果物たちが全滅したこともあった。
けれど、めげることはなかった。
兵吾は名の通り、折れぬ心を持つ兵だった。
強く育て。と願い付けられた名に恥じぬ男だった。