「そういや、ババァがサクラ様がいるからこの辺はこんくらいですんだんだと。ありがとね」
そう言ってズボンについた土を掃い立ち上がる。
このような無力な神をいまだにそんな風に思ってくれているのか。
ありがたい。それは力になる。まさか神になって人に力を貰うとは思わなかったが。

「また桜咲くよね?ずっと咲くよね?」
まだ蕾もない寂しい桜の木を見上げ男は呟いた。
それは男が初めて見せた弱音。生まれ育った土地を思い出た弱音。
もしかしたら生まれ育った土地が二度と還れぬ土地になるかもしれない、その恐怖。
その心境はいかほどのものか?

なら神として力強く答えよう。

当たり前じゃ、アホウが!桜は必ず咲く。この名に誓おう!
この桜だけじゃない!必ずや東北の地の桜は満開に咲き誇るわ!
毎年毎年これからもずっと咲き誇るわ!


聞こえぬはずの声でサクラは叫ぶ。

「そっか。じゃ満開になったら毎年見にくるわ」

届かぬはずの声。けれど男は微笑み確かにそう答えた。

おう。毎年毎年ずっと見にこい。みなで見にこい。見事な花を咲かせてみせるわ。

春の到来を告げ始めた暖かな風が吹く。
鮮やかな白と紅の歪な巫女装束が風に揺れ、サクラは階段を下りていく男を見送る。

これからもこの地は様々な苦難を乗り越えなくてはならないだろう。
けれど負けぬよ。
我が子も、私も、この桜も。
見事に咲き誇ってみせようじゃないか。


おわり。