こんな不純な物が漂っているのにこんな所に何をしにきたのじゃアホウが・・・
「隣のババァが祠見てこい祠見てこい、ってすげぇ心配しててさ」
そう言ってタバコを取り出し火をつける。
その手。
生傷が絶えず、絆創膏がいたる場所に貼られている。
大の大人なのに子供のような口の悪さのこの子は、昔からぶっきらぼうで心優しい子で。
禍があってから数日間、この子が何をしていたか容易に想像できるその手。
この子の住む場所は周りは体の不自由な老人だらけだ。
きっと何も言わず、飲み水をみんなのために何度も運び、買い出しに何度も行き、近所の家の片づけを手伝い、落ちた瓦などを運びだし、小さな復旧作業をこなしていたのだろう。
「ババァよ、あんたいつもコンビニの弁当ばっかでお米とかなんて買ってないでしょ!ってブチ切れてさ、米と玉子、俺に渡すのよ。うちはおじいちゃんと私だけだからそんなに食べないから。って。てめーの心配だけしてろって。つーか、俺のゴミ、チェックしてんなっつーの。うぜぇ」
止めたはずの涙が溢れだす。
それはな、それはな、おまえに感謝しているからだよ・・・この子は、この子は、本当に・・・
報道なんてされない、語り継がれることのない、小さな英雄の、愛おしい我が子の背中を抱きしめる。
今の私にできるのは、このくらいしかない。許せ。この無力を許せ・・・
人の手で作り上げてしまった悪魔には人にしか手出しはできず、そこに神の介入する余地はない。
おまえの偉業、私は絶対に忘れぬ・・・健やかに、そして強く育ったな我が子よ・・・よく頑張った、よく頑張ったぞ・・・
そっと頭を撫でる。
「・・・あれ?俺、今もしかして褒められてる?あは。いくになっても嬉しいもんだね」
それはきっとサクラの持つ、最も優れた力。
魔を祓うよりも、賊を近づけさせぬよりも、疫病を鎮めるよりも。
他の絶対神が持てぬ、人の身で神に成り得たサクラだけが持つ力。
語られぬ英雄は、数日ぶりに小さな安堵の笑みをこぼした。