日が経つにつれ、サクラが見つめる土地から生活感が消えていった。
愛する子らはいるのだが、営みがない。
空気に命を脅かす不純物が混じっている。
現代人の生活を豊かにし潤すエネルギーは、その姿を変え命を脅かし、大地を死地に変えようとしている。
地域の人間が「安全だ」と言い続けられた、それは悪魔に姿を変えている。
「すぐに健康を脅かす数値ではない」「レベル5」「危機的事態」「外出は控えろ」「外出するなら肌を出すな」聞き慣れぬ言葉、飛び交う情報の不安定さに、子らは不安を増長され苦しんでいる。
その悪魔の中に果敢に飛び込み、決死の覚悟で事を収めようとする、生前の自分のような人がいる。
英雄たちは戦い続けるが、事はなかなかうまく進まない。
その恐怖が、サクラの預かる地を含む県の住民から生活を奪っている。
他の県に避難するの者も増えている。
当然だ。
それは当然の決断だ。
全ては命あっての話だ。
だが、悲しい。
やはり人が居なくなるのは悲しい。

そんな中、階段を上がってくる足音が聞こえた。
「お。サクラ様、無事だったか」
男は祠を見て、小さく笑う。
「さすが神様の祠。古いくせに頑丈なのな。これお供え物」
そう言ってポケットから缶コーヒーを2本取り出すと、1本の蓋をあけ祠におき、もう1本は自分で飲みながら祠と桜の木の間に腰を下ろし、遠く海のほうを見つめる。