厳しい長旅だったのか、巫女装束は泥にまみれボロボロで、その白く美しい足には夥しい血豆と出血で見るも無残な状態だった。
季節は雪降りつもる真冬。
巫女の足元の雪は血で赤く染まっている。
なぜこのような土地に巫女が訪れた?しかも一人で?
賊の卑劣な罠か?妖の類か?
怪訝に思う民たち。
しかし女は嘘か真か神に仕える巫女、いやそれよりも我が子のような年頃の女を見捨てることはできるはずもなく、民たちは何もないながらも精一杯の手当てを施す。

雪は解け、春の花たちが村を彩る頃。
季節は春の始まり、巫女の足は完治していた。
巫女は辺り一帯を見下ろせる高台へと、完治した足で駆け上がる。
その高台から巫女の目に飛び込んだもの。
山は緑が茂り、川には澄んだ雪解け水が流れ、野はたんぽぽの花が咲き乱れていた。

「美しい土地ですね。この土地が魔物や賊に穢されているのは忍びない」
巫女は後から着いてきた、ここ数カ月自分の身を世話し案じてくれた老婆に話しかける。

「巫女様もはよう逃げなされ。足はもういいじゃろう?雪が解けた。やつらがまた来る季節じゃ。あんたみたいな若い娘はここにおっては連れ去られてしまうけぇ」
老婆は悲しく微笑む。

それは賊や魔物を恐れてか?それとも我が子のような巫女との別れを惜しんでか?
「ここは神のおらぬ土地じゃぁ・・・」
老婆の声は、まだ冷たい風にかき消されていた。