幻想体であるサクラには揺れそのものは感じないが、自分の名を冠し常にそばにある桜の木の揺れが、愛する子らが長年をかけて築き上げてきた現代文化の悲鳴にも似た軋み音が、今までにない尋常ならざる力量を物語り続ける。
「はよう・・・はよう・・・おさまってくれ・・・頼む、おさまってくれ・・・」
誰にも聞こえぬ呟きは、もはや神の救いではなく一人の少女の願い。
千年を越える時間の中、大なり小なり禍はもちろんあった。
歴史に語られぬ大きな禍もあった。
けれどこの地の守り手として涙を流すことはなかった。
泣かぬ。泣く暇があるのならこの地この民のために戦う、神になるときそう誓った。
幸いに今まではどこかに抗う術があった。
救いの手を差し伸べられるなら、愛する民のために愛する大地のために、どんなに苦しく悲しい禍にも立ち向かえた。
しかし今回の禍は抗う余地がまるでない。
「とまって!!とまってよー!!」
千年以上守り続けた誓いは崩壊する。
捨てられ行き場の分からぬ子供のように座り込み、見苦しく喘ぎ嘆くのみ。
それがサクラに許された唯一の抵抗とも呼べぬ悪あがき。
1分が長く、2分は永遠。
荒れ果てた愛する土地。
愛する子らの変わり果・・・
「いやぁあああああ、とまってー!!」
終わりを知らぬかのように、最悪を考えずにはいられない惨劇はまだ続く。
永遠を越え、もはや時間という感覚が薄れたころ、禍はその手を緩めた。