東北南部のとある田舎。
そのとある地方の目立たぬ高台。
まだ蕾もない桜の木の下、サクラは遠くを見つめている。
生前見るにはいたらなかったが、その視線の先には海があるという。
大きな大きな果ての無い水たまり。

そこに大きな禍が蔓延っている。

他地方の神々が禍を抑えようと奮闘はしているが、禍はあまりにも巨大。
抑える術は見つからず、いたずらに時を浪費しているのが現状だ。
人の身でありながら人ならざる神に成り得たサクラは己の無力さをただ歯が崩れそうなほど噛み締め耐えるしかない。
神ではある。
けれど、その身は人間のものだ。
絶対の神ではなく、多くの制限を受け入れたうえでの神。
賊を寄せ付けぬ力はある。物の怪の類を払う力もある。疫病を抑える力もある。
されど微力。
神といえど所詮は小さな集落の守り手、守ると誓った小さな集落から外に出ることは叶わず、これから襲い来るあまりにも巨大な力には抗う術がない。
己の無力を呪い、ただ愛する民の無事を祈ることしかできず。