恵子がおみくじらしき物を取ろうと腰を屈めると、背中に桜咲く春のような温もりを感じる。
誰かに、誰かに、抱きしめられている。
優しく、優しく、抱きしめられている。
けれど、振り返っても、きっと誰も居ない。
でも、抱きしめられていて。
「・・・サクラさま・・・」
おみくじを開くがただの白紙。

私はおまえが何に悩んでいるのか、その原因は知らぬ。

本来書かれているはずの文字の代わりに、春の日の木漏れ日のような声が響く。

知らぬが、喜びも悲しみも、期待も不安も、今おまえが抱えている苦悩も、それらは全て今後のおまえの糧になる。

抱きしめられた体は春のようにポカポカと。

健やかに育てよ。

そっと頭を撫でられ、背中に感じる温もりは消えた。