自分の名を呼ばれサクラは満足そうに何度も頷き、それに合わせ竹細工でできた髪飾りで結う美しい黒髪が揺れている。
「で、恵子は何を悩んでおるのじゃ?私に言うてみい」
「悩んでいるっていうか、怖いっていうか・・・」
力無く俯く恵子の顔をサクラが覗き見る。
「やはり似ておるのぉ」
サクラは嬉しそうに恵子の顔を覗きこむ。
「え?誰に?」
「私にとって最もおばあちゃんと呼ぶにふさわしいお前のご先祖様。一時ではあったが私にとっての家族。その人に似ておるのじゃよ」
「おばあちゃん、って・・・私そんなに老けてない・・・」
「あはは。そうじゃな、すまんすまん」
人の身でありながらその自己犠牲で神に成り得た偉人がケタケタと笑う。
「恵子、お前のご先祖様・・・ううん、私のおばあちゃんはわざわざ家を高台の側に移し、桜と祠を、私の依り代を守ってくれた。そしてお前の一族はその意思を受け継ぎ今日この日まで、千年を超える時、その在り方を貫いてくれておる。感謝しておるのじゃよ。だからその末裔であるお前の力になれればなと思ったんじゃ」
「神様がさ、一人の人間に肩入れしていいの?」
その疑問がおかしくてクスクスと笑ってしまう。
「確かに私はここいらの鎮守神じゃが、心は人のそれじゃ。思い入れがあれば肩入れもするわ」
女神はあっけらかんと。
「明日の朝、学び舎に行く前に私のところに来るがよい。おみくじと言うのか?それを用意しておこう」
「え・・・?」
懐かしい声。
外を駆け回るのが大好きだったあの頃に聞こえた懐かしい声。
サクラ様は、一度振り向き、神秘的な美しさの笑顔を見せた