春の優しい太陽の日差し。
美しく咲き誇った桜が作る木漏れ日の中。
高台に咲くその桜に一人の女が寄りかかり、眼下に見える行く人々を見つめている。
小学生が元気に走り、中学生がじゃれあいながら歩き、高校生が自転車を走らせ、大人たちがそれらを見守る田舎道。
古風な髪飾りをつけた長い黒髪と、巫女装束に似た鮮やかな紅の袴が風になびいている。
「今日も我が子らは元気なことよ。よいことじゃ、よいことじゃ」
道行く人々を見つめ、誰の目にも映らぬ女は、誰にも聞こえぬ声で、そう呟いていた。

昔、小さな部落が点々と連なるここいら一帯は神の住まぬ土地だった。
八百万の神が住む国において唯一の神の不在の地。
神の住まぬこの土地は、たびたび魔物や賊に襲われ田畑や家畜は食い荒らされ、金品は強奪され、若い男は戦に駆り出され、若い娘は連れ去られていた。
降りかかる禍に民たちは立ち向かうも、残されているのは年老いた者や女子供。
その力は魔物や賊には遠く及ばず、惨劇は繰り返されていた。
嘆き悲しむ民たち。
その惨劇の土地に一人の旅の巫女が訪れる。