アタシの本気の抵抗に、逢空が呆れたように髪をかき上げて、だらしなく履かれているスウェットのポケットに右手を突っ込んで近づいてくる。

「ンな、なに…」

同じように育ってきているつもりだったのに、捲ったパーカーから伸びる腕は逞しく、不覚にもドキドキしてしまう。

「…なッ…何よぉ」

何その切なそうな瞳!?

後ずさりしていくと、背中に冷たい感触があった。

アタシっ…追い詰められてる?

「分からんの?」

遥かに身長の高い逢空が、壁に手を当てて、アタシの目線に合わせて顔を近づけてくる。

「…近」
「近くないと」
「何でよ?」

一瞬驚いた顔をして、馬鹿にしたようにフッと笑う。

「腹立つわその笑い方」

朝っぱらから気ぃ悪…
最近、コイツはアタシをよく小馬鹿にする。

「まだ分からんの?」

だから分からんって
ゆうとるやんけーー!!

半ギレのアタシの顔色を伺うと、溜め息をついて、アタシの顎を中指で持ち上げた。

「…う?」
「こうゆうこと」

もう片方の手の人差し指を、自分の唇に当てる。

反射的に見た逢空の唇は、薄くて、ピンク色で、綺麗だった。