恐怖だけは増幅していくけど、拓の顔は更にどんどん迫ってきた。
どうしたらいいのか分からなかった私はとにかく拓にこれ以上近付かれたくなくて……
パチン!
拓の左頬を平手打ちしてしまっていた…。
「……ったあー…」
そううなりながら左頬を自分の手のひらで押さえる拓の姿を見た途端、急に正気に戻った。
「ウソ。私、何して…。ごめん、拓!」
「いや、大丈夫…」
「腫れてない?氷で冷やした方が…」
…と言いながら拓の左頬の様子を見ようとしたら、いきなりその手を払われた。
「「あ、ごめん」」
同時に発した二人の声が重なって、また少し沈黙が流れた。
どうしよう。
私、拓のこと…、ぶっちゃった。
こんなつもり、全然なかったのに。
「柚…今日は帰ってくれないか?」
沈黙を破ったのは、拓だった。
けど、その一言は私には重すぎる言葉だった。
『帰ってくれないか』
どうして…?
いつもなら、家の前まで送ってくれるのに。
「ごめん。柚と一緒に帰りたいけど、俺にはできない。だから……」
「…ごめんね。私、帰る」
最後に拓が言っていた言葉も飲み込めないくらい、『帰ってくれないか』の一言が私の頭の中に響き続けた。
あまりのショックで、私はその場にいることすらできなかった。
急いで荷物を持って拓の部屋から駆け出して、私はそのまま通学路を走った。
あれだけ拓と手をつないで一緒に見ていた優しい風景も…
何もかも、私の目には映っていなかった。
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