「…柚?大丈夫か?」
「……痛い」
「…だよな?ケガは?」
「ないよ…」
「グラスもただ倒れただけだから、刺さってないと思うけど…」
「ホント、ごめん…」
…と、身体をゆっくりと起こしたら、たまたま目の前に拓の顔があってびっくりした。
「あ、近い……」
そんな感想を、私は無意識のうちに声に出してしまっていた。
すると拓は、顔を思いっ切り横に向けた。
「わりい」
拓はそれだけ言って、顔を横に向けたまま下の方を見つめた。
コレ…、完全怒っちゃった…よね?
こんな気まずい空気の中、コケてグラス倒しちゃうなんて、私ですら信じられないミスなんだけど…!
更に空気が悪くなったのが、ハッキリと分かる。
拓とこのまま、ケンカなんてしたくないよ…っ!
「あの…、こういう時何言ったらいいか分かんないけど、とにかくごめんなさいっ!!」
「え…?」
謝るしかない。
それが、私の出した答えだった。
「拓…、怒ってるよね?私、拓のコト考えて言ってるつもりだったけど、拓にとっては気を遣い過ぎだったんだよね…?」
思っていることは、ちゃんと口に出さないと分からない。
それは、クラスに友達が出来たこの1年で勉強したこと。
だから私は勇気を持って、拓に今思ったことをぶつけてみた。
すると拓は、何が何だかよく分からないと言った表情で私を見てきた。
それでも関係なく、私は拓にきちんと謝った。
「もし拓の気持ちとずれたコトをしてたら、本当にごめんなさい。私、友達付き合いもまだまだだし、ましてや男子と付き合ったことなんてなかったから…」
私は拓に向かって深く頭を下げた。
…こんなことしかできないよ。

