どれだけ……その場で突っ立ったままだったのか分からない。
気付くと太陽はもう山に沈んでいて、暗闇が辺りを包もうとしていた。
「あっ、柚!探したんだよー。松沢さんに引っ張られたまま、全然教室に帰ってこないから……」
「映美佳…?」
校舎の方から映美佳の声が聞こえてきて、そこで私はようやく周りの状況をグルリと見回した。
あれ…?
みんな帰ったのかな…?
校舎の窓から感じ取れていた人気が、さっきより明らかに無くなった気がする。
うっすらとそう思っていたら、すでに制服に着替えていた映美佳が私の前に立ち、私の手を掴んだ。
「どうしたの、柚?松沢さんに何言われたの…?」
「どうしよう…、私、拓と別れたくない……」
か細い声を通して、私は映美佳に今の率直な気持ちを伝えた。
ちゃんと何を言われたか、映美佳に報告しなきゃ…って思うけど、どこから説明していいのかさえ分からない。
それくらい、まだ頭が真っ白だった。
「まさか…、松沢さんに『別れろ』って言われたの?とにかく暗くなりそうだし、着替えて早く帰ろうよ。話はちゃんと聞くから」
「うん……、ごめん映美佳…、心配かけて」
「いいから!教室に戻ろ?」
中庭の木々がまだ風に揺れている。
まるで私の心に立つさざ波のように…。
混乱が、私をまるごと飲み込んでいくような…ただ、苦しさが続く感覚だった。
心配そうに私を見つめてくる映美佳に手を引かれながらゆっくりと、私は薄暗くなり始めた中庭を離れた。

