そこまで言うと、松沢さんはベンチからゆっくり立ち上がった。
すると夕日が、私よりも背が高い松沢さんの後ろに隠れて、私の顔に影を作った。
「じゃあね」
それだけ言うと、松沢さんは静かに歩いて校舎の中に消えて行った。
夕方の風が、頬をなでる。
ポニーテールにした髪の毛が揺れるのを感じた。
…あんなこと言われてしまって……
どうしたらいいのか分からない。
混乱する頭で、ぼんやり去年の体育祭を思い出す。
1年の時の体育祭の最後のリレー……
5クラス中4位でバトンをもらったアンカーの拓は、私が見たことないくらいの力強い走りで3位と2位の選手をごぼう抜きした。
そのままものすごい差があった1位の選手に追いつくところまで行ったけど…、結局抜くことはできなかった。
ゴールの瞬間の拓の悔しそうな顔を、今でも覚えてる。
私は今は別のクラスなんだけど、それでも内心では今年は拓にあんな思いをさせたくないって…、ずっとずっと思っていた。
きっと、去年の拓の走りを見てる松沢さんだって、私のそんな気持ちに気付いているハズ。
だからこそ…、私の想いを試しているのかもしれない。

