中学校から徒歩数分という、かなりいい立地にある拓の家。
すぐに着いてしまって、拓はそのまま中に入って行った。
私は言われるがまま拓の家の玄関前で待って…
そして1分もしないうちに、拓は制服のまま手ぶらで出てきた。
「行こーぜ。その荷物持ってやるよ」
「いつも言ってるけど、別にいいのに…」
「筋トレ筋トレ。それに……」
「え?」
急に拓が横を向いた。
…かと思うと、私に聞こえるか聞こえないかの声でポツリと言った。
「手ぇ……、つなげねぇだろ」
その言葉を耳にした途端、私まで急に恥ずかしくなってしまった。
どうしよう。
今、絶対顔赤いよ…。
「大体今日は始業式だけなのに、何でこんな大荷物なんだよ?」
「ごめん。教科書せっかくもらったから、予習しとこうと思って…」
「…やっぱ柚、すごすぎるな。もう別次元の人間かも」
「拓は?教科書もらわなかったの?」
「置き勉に決まってんだろっ!?」
私からみれば、置き勉してる人の方が別次元の人に見えるんだけど…。
先生にバレたらどうするの!?
宿題は家でしないの!?
…とか考えちゃう。
私は拓みたいな明るい性格だとは決して言えないし、これと言う特技もないと思う。
だけど唯一の取り柄が、テストの点数が人よりちょっと上なこと。
この取り柄も、友達がいなくて一人だった時、休み時間にすることがなくてとりあえず勉強してたら身に付いたんだけどね。
こんな会話をしてると…、今でもたまに思う。
どうしてクラスの盛り上げ役の拓が、こんな…性格も正反対で特に目立たない私のことなんて好きになってくれたのか。
自分でも、彼氏ができるような性格じゃないって何となく自覚してるのに…。

