苦悩する僕の頭に突然、声が響いた。

(誰もが、1人では何もできないわ)

その声を聞いた瞬間、僕ははっとして振り返った。

「だからこそ、人は助け合う」

甲板の真ん中に佇む…ブロンドの女の人。

「テ、ティアナさん!?」

僕は、驚きの声を上げた。

「下らないことで、悩むくらいならば、人を守る道など、最初から選ぶな」

今度は、前から声がした。

「ライ!?」

再び驚きながら、前を向いた。

海面上で、腕を組むライが浮かんでいた。

「あなたは、1人ではないわ。アルテミアがいる」

ティアナの言葉に、僕はゆっくりと振り返った。

「アルテミア…」

ティアナは頷き、

「それだけではないわ。人間を守りたいと思う者は、沢山いる」

僕に微笑んだ。

「ティアナさん!」

「大丈夫」

ティアナの笑顔のまま、消えていった。

「フン!下らん」

ライも消えていく。

「ライ!」

僕が叫んだ時、脳裏に次々に動き出した人々の姿が、浮かんだ。

遺跡の前から、歩き出したジャスティン。

2人で走り続けるカレンと九鬼。

それ以外にも、おかしな空気を察して、調べ始める軍人や、一般のギルドの人々。

その行動を映しながら、バックにかかる音楽は、レダのレクイエムだった。

(彼女の歌が、人々を動かしている)

そして、雲の上で旋回するアルテミアの姿が映る。

(アルテミア!)

僕は、目を見開いた。

(そうだ!悩むことはなかった!アルテミアに話し、騎士団長達に動いて貰えれば、人々を助けることができる!)

僕は強く頷くと、アルテミアに思念を送ろうとした。

その瞬間、いきなり足を掴まれ、バランスを崩した。

「言ったはずよ。あなたは、魔物を滅ぼせばいい。そして、あたし達は…人間を滅ぼす」

「レダ!目覚めたのか!」

甲板の下から、物質を通り抜けるように、レダが頭から姿を見せた。

僕は慌てて、レダの手を振り払うと、後方にジャンプした。

「赤の王よ。私は、感謝している。まだ人間と思っていた時、魔物に蹂躙させていた私を、助けてくれたこと!そして、歌を教えてくれたことを」