「レダ…」

空母内にある居住空間に、テレポートした僕は膝を折ると、毛布の上にレダをそっと寝かせた。

段ボール等で仕切られたプライベート空間に、安らぎはない。

「僕は馬鹿だから、このやり方しかできないんだ」

レダの寝顔を見てから、僕はゆっくりと立ち上がった。

何も教えられずに無理矢理、空母に連れてこられた何百人もの人々は、すし詰めにされた空間で、何とか自分の居場所をつくり、耐えていた。

普通ならば、パニックになってもおかしくない状態で、何とか人々が正気を保っていられるのは、そばに勇者がいたからである。

「赤星様」

薄い空間に、老婆のか細い声が響いた。

「赤星様」

その声が合図となり、次々に人々がプライベート空間から立ち上がった。

「皆さん」

僕は圧し殺した声で、人々を見回しながら言った。

「心配しないで下さい。ちゃんと帰れます。僕が保証します」

僕の言葉に、人々は少し笑顔になると再び、四角プライベート空間に横になった。

僕と人々のやり取りは、いつも変わらなかった。

毎日同じ質問の繰り返しであるが…それで安心するならば、何度でも言おう。

僕は、人々が横になったのを確認すると、再びテレポートをして、甲板へと出た。

やつらの目的は、わかっていた。

空母内に囚われた人々を狂わせ、殺し合いをさせたいのだ。

そして、咎人の中から、天使を召喚させる。

空母で働く軍人達には、僕を魔王軍と戦わせる為に、民間人を仕方なく監禁しているとでも言っているのであろう。

(くそ!)

心の中で叫ぶと、僕は拳を握り締めた。

(力はある!ここから、人々を救いだすことはできる!しかし!)

囚われた人々は、ここだけではなかった。

僕が反乱を起こした瞬間、他の場所で無理矢理、殺し合いを起こさせる手筈になっていた。

(テレポートで、すぐに移動すれば、何ヵ所かは助けることはできる。だけど、何ヵ所では駄目だ!)