「レダ…。君は…」

天使の群れの中で、歌い続けるレダだけを、僕はじっと見つめた。

「―――あたしは、堕天使だった」

僕の視線に気付き、レダは歌うことをやめた。

「しかし、あなたに出会い…歌うことを覚えた。そして、歌い続けることで、あたしは思い出した!自分自身のことを!」

世界を救う為に、歌っていたレダは…どうして、歌うのか…理由を知った。

自分が恐怖と不安を感じるのは…自分の使命が、人間を清浄化する為であったとわかったからだ。

「き、君は!」

炎の翼を広げ、飛び立とうとする僕の周りに、天使達が海面から甲板へと一瞬で移動した。

「チッ」

戦闘体勢に入ろうとすると、レダが海面から、僕の真後ろにテレポートしてきた。

「心配することはないわ。もし、すべての人間が死に絶えたとしても、あなたは残る」

レダは後ろから手を伸ばし、僕の首筋に触れた。

「何なら…あたしも残ってもいい。2人で、無になった世界から、新しい世界をつくりましょう」

「ふざけるな!」

僕は振り返りざま、レダの手を振り払った。

「無になどさせない!」

僕の睨む横顔を見て、レダは再び翼を広げた。

「無駄よ。世界は無となり、次につくられる世界は…優しさと音楽に包まれた世界になるわ」

「今の世界も!優しさと音楽に溢れている」

「考えの違いね」

レダは笑った。

そして、その場で崩れ落ちた。

「朝か…」

俺は、状況を知った。

周囲にいた天使達は、地平線から顔を出した太陽と融合するように、消えた。

太陽を背にして、俺は崩れ落ちたレダを見た。

「堕天使か」

甲板に横になるレダに、翼はない。

「あの時助けた少女が…歌を覚えて笑っていた少女が…」

僕は目を瞑った。

そして、普通の人間に変わったレダを担ぐと、甲板から消えた。

空母内にある居住空間に、テレポートする為に。