さらに、女神をつくったのである。

人間だけを相手にするならば、魔神が数人いれば、ことは足りたであろう。

ならば、その天使の媒介である人間を、歴代の魔王達はなぜ絶滅させなかったのであろうか。

その理由は、魔物達にとっても、人間が糧になっていたからである。

魔王ライは、人間もどきなる代用をつくり、人を滅ぼそうとしたが、それは…できなかった。

一方、人間側も馬鹿ではなかった。

救いの為の神の降臨が、人間を滅ぼすことに気付いた権利者達は、人を殺すことを最大の罪とし、天使の発生を防ぐことにした。

魔神達を神レベルと呼ぶことで、神という言葉に畏怖を与えた。

そして、人神なるものをつくり、信仰をそちらに向けたりもした。

しかし、天使は再び降臨した。

世界を無にする為に。






「レクイエムか…」

僕の言葉に、風に乗るメロディが笑った。

「そう」

突然、瞼の向こうに眩しい光を感じて、僕はゆっくりと目を開けた。

甲板から広がる海面の上に、八枚の翼を広げ、佇む…天使がいた。

「レダ」

僕は瞼を開けると、光に目を細めた。

「赤星浩一…いや、赤の王よ。すべての魔物を倒しなさい。それが、人間の為になるのよ」

光輝く後光を背にして、天使は微笑んだ。

「く!」

僕は、両拳を握り締めた。

すると逆に、天使が目を瞑ると、再び歌い出した。

鎮魂歌を。


その歌声に、導かれるように、空母の周囲の海面から、無数の天使達が姿を見せた。

まるで、光のイリュージョンのように明るくなる海。

「く、くそ…」

僕は、言葉を吐き出した。

赤星浩一が、防衛軍に入ったのは、人間を人質にとられているからではなかった。

いや、とられてはいるだろう。

防衛軍ではなく、天使に。

しかし、その事実を知る者は少ない。