「あ〜あっ!」

高坂は頭をかくと、学生服のポケットに突っ込んでいた乙女ケースを理香子に向けて投げた。

「借りていた力を返す」

「部長!」

乙女ケースを返した高坂の行動に、緑は驚き、声を発した。

「おそらく…この世界じゃあまり使えないはずだ。あんたにとっては、この世界のものはどんなものでも、大切なはずだ。例え…人に危害をくわえるものでもな」

高坂は、部室に戻る為に歩き出した。

「部長!」

慌てて、緑と輝が後を追った。

「…」

そんな三人を、無言で見送る理香子の後ろから、結城里奈達…乙女戦隊月影のメンバーが駆け寄ってきた。

「理香子!」

「丁度よかったわ」

理香子は振り返る前に、笑顔を作った。

「相原…」

隣に立つ中島は、心配そうな顔を向けた。

「里奈…みんな…」

理香子はここで、一呼吸置くと、真剣にこう言った。

「月影の力を返して貰います」





「部長!どうして返したんですか!」

緑の言葉に、輝は頷いた。

「そ、そうですよ!」

「やれやれ」

体育館の裏に回り、理香子の姿が見えなくなってから、高坂はこたえた。

「この世界に来てから、あの力は…敵に操られたことがあった。恐らく…月の女神の親族には通用しない」

「だ、だけど…今さっきの話では、力を失ったと」

輝の言葉を、高坂は一瞥して目で止めた。

「で、ですけど」

月影に変身し、操られた経験を持つ緑は口ごもった。

「何にしてもだ。危険なものに頼ることはできない」

「ですが!」

「くどいな。平和を守る俺達が、敵にまわることは許されない。月影の力なくても、守り抜いて見せる」

「どうかしらね?」

突然、前から声がした為、高坂は足を止めた。

そこには立っていたのは、少しだけ足下が崩れ始めた美奈子だった。

「力は、必要よ」

美奈子は三人を見つめ、


「大事なものを守れなかったら、一生後悔することになる。だから」

自分に銃口を向けながら、自らの力を高坂に差し出した。