しかし、ロープは…乙女シルバーを拘束することはできなかった。

「な!」

今度は消滅させられたのではなく、すべて…手の甲で弾かれた。

「…例え、闇に包まれようが…あたしを覆うことはできない!」

九鬼は顔を上げると、美和子を睨んだ。

「や、闇に落ちていない!」

たじろぐ美和子と違い、軍人達は今度は、剣を抜いた。

剣先を真っ直ぐ、乙女シルバーに向け、特攻の構えに入った。

その様子を冷静に見つめながら、九鬼は言った。

「あたしは、闇の中で生まれ…育った」

「う!」
「く!」
「な!」

九鬼が話している間に、すべての軍人の手から剣が落ちた。

次の瞬間、軍人達の手の甲が、真っ赤に腫れ上がっていた。

「み、見えなかった」

目の前まで来た九鬼の動きを、美和子…いや、その場にいたものは、誰も目視できなかった。

「それに、月影は!月の光によってできた影!闇になどに、侵されることはない!」

九鬼はジャンプし、蹴りの体勢に入る。

「ヒィ」

軽く悲鳴を上げた美和子の目に、空中で舞う九鬼の姿が映る。

「ほお〜」

金縛りにあったように動けない美和子の耳許で、感心したような声が聞こえた。

「闇を纏う戦士か!」

次の瞬間、美和子は首根っこを掴まれると、後ろにほり投げられた。

「!?」

空中で、右足を突きだした九鬼の目に、金髪の男がにやりと笑いながら、見上げている姿が映った。

(誰だ?)

考える暇もなく、左右から九鬼目掛けてジャンプしてきたものがいた。

金髪の男の前にも、何かが立った。

「チッ」

九鬼は舌打ちすると、蹴りを止めて、真下に落下することにした。

闇に侵食された体が輝き、スピードを増すと、地面に着地した。

その真上では、飛びかかってきたもの同士が、ぶつかっていた。

九鬼は上を見ることなく、土を蹴った。

「速い!」

その動きを見て、金髪の男は目を見開いた。