「キイイイッ!」

奇声を発し、九鬼を威嚇する鞭のグリップに気を取られた瞬間、壁や窓を突き破っていた四本の先っぽが、九鬼の背中を狙う。

「アハハハ!」

男は、大声を上げた。

「チッ」

避けることのできない空中。

しかし、舌打ちした九鬼の右足から、甲高い金属音がすると、生徒会室の空気が震えた。

「な、何!」

次の瞬間、九鬼の周りにあったものは、塵と化した。

「わ、私のキメラが!」

鞭に擬態していたキメラも、塵になった。

頭を抱える男の目に、右足のニーソックスが破れ、剥き出しになったグレイの金属が飛び込んできた。

「な、何だ!あれは!」

男は慌ててカードを取りだすと、右足の金属をサーチした。

「シ、シークレットアイテムだと!?ま、ま、まさか!オ、オウパーツ」

確認しながら、男は無意識に後退っていた。

「あり得ん!や、やつの武器は、月の鎧だけではなかったのか!」

生徒会室の真ん中に降り立った九鬼は、背筋を伸ばすと、男を睨んだ。

「ヒイイ!」

小さな悲鳴を上げると、男は生徒会室を出て、廊下を走り出した。


「…」

九鬼は別に追いかけることなく、穴が空いた窓に向かった。

そして、グラウンドを目にした時、九鬼は絶句した。

何故ならば、いつも整備されて綺麗なグラウンドに、数十台の軍用車両が止まっていたからだ。

「どうなっている!」

九鬼は窓を開けると、そこから飛び降りた。

2、3階くらいならば、生身で着地できた。

グラウンドに向かって立っている時計台を見上げると、軍旗がはためいていた。

「理事長!」

九鬼ははっとすると、東館にある理事長室に向かって、走り出した。



「どこ行かれますの?」

西館の入り口から入ろうとした九鬼の前に、中から出てきた桂美和子が立ちふさがった。

「ここは、関係者以外立ち入り禁止となっております」

「美和子さん!」

軍服を着た美和子の姿に、九鬼は眉を寄せた。