「!」

幾多は、足を止めた。

「やつらのように、人間から魔物になるのではなく…新たな進化の為に、君が必要なんだ」

ヤーンは、体を幾多に向けた。

「超能力でもない。人が生み出す最大の力。それが、闇だ」

ヤーンは、手を伸ばした。

すると、体から煙のような闇が立ち上った。

「かっての人が、恐れた闇ではない。我々の心が生んだ闇。その濃さは、闇の女神さえも凌駕する」

「…」

幾多は振り返り、ヤーンを凝視した。

「負の力と言われた闇が、人々を未来に導く!その為には、君の力が必要なのさ。炎の魔神すら、ファンにする君の力がね」

「フン」

幾多は、体をヤーンに向けると、目を細めた。

「何だい?」

ヤーンは、笑顔を向けた。

「あんたの力は、特異なものだ。人間の進化とはいえない」

幾多の言葉を聞いて、ヤーンはせせら笑った。

「アハハハ!おかしなことをいうね!」

しばし笑った後、ヤーンは涙を浮かべた目で話し出した。

「赤星浩一は、この世界の太陽になった。。たった一つの!しかし、それは人間の進化とは言えない。彼は、魔神になった。だけど、闇に墜ちることに、人間を捨てる必要はない。君は人を殺して、魔物になったかい?」

ヤーンの言い方に、幾多はゆっくりと接近すると、闇を発生させている腕を掴んだ。

「!」

驚くヤーンに、顔を近付けて、幾多は言った。

「俺は、人間を殺しているじゃない。汚れた人間の心を殺しているんだ」

静かな殺気を放つ幾多の目を見て、ヤーンは震えだした。

「す、素晴らしい!やはり、君は素晴らしい!」

ヤーンは、幾多の目に顔を近付け、

「殺人者の目じゃない!なんて美しい目だ!この目だよ!ほしいのは!」

「チッ」

ヤーンの言葉に、幾多は彼の腕から手を離すと、背を向けて歩き出した。

「素晴らしい。やはり君は、必要だ。人間の常識を変える為に!進化の為に!」

ヤーンはそう叫びながら、闇と同化して消えた。

「フン」

幾多は、路地裏を出て、人混みに消えていった。