「結局〜何もできませんでしたね」

輝は、両手を首の後ろで組みながら、欠伸をした。

「仕方がないでしょ。別に、暴れていないし」

緑は部室の壁にもたれながら、ため息をついた。

情報倶楽部の部室に、ブルーワールドから来た全員が集まっていた。

「ブルーワールドに戻ることもできないし」

輝の言葉を聞いて、緑は黙り込んだ。

舞だけが、いつも通りパソコンのキーボードを叩いていた。

高坂はずっと部室の真ん中で、考え込んでいた。

「…でも、生徒会長がいなくなったのは、間違いなくブルーワールドに戻ったからだと思うわ」

舞のそばにいた…さやかは場の空気を感じ、希望を口にした。

「だけど、あの人は特別ですよ」

そんなさやかの気遣いに気付かず、輝は口を尖らせた。

その時突然、部室の扉を叩く音がした。

「…」

まるで、その音を待っていたかのように、高坂は扉に向かって歩き出した。

そして、ノブを掴むと一気に開けた。

「ご機嫌よう」

扉の向こうに、リンネが立っていた。

「ほ、炎の騎士団長!?」

リンネを見て、輝は慌てて部屋の奥に逃げた。

「何か用ですか?」

高坂は逃げずに、リンネの目を見て訊いた。

「フッ」

リンネは軽く微笑を浮かべてから、言葉を発した。

「あなたのお兄さんが死んだわ。それだけを伝えに来たの。彼は、彼の思うように生きたわ。例え、弟であるあなたと考え方が、違っても」

「そうですか」

リンネの言葉を訊いても、高坂は頷くだけで落ち込みはしなかった。

どこか、幾多の死が近いと感じていた。

「それだけよ。あたしは、彼の最後を伝えに来ただけ」

あっさりと去ろうとするリンネに、高坂は叫んだ。

「魔神であるあなたに、頼みがある!俺達を、ブルーワールドに連れていってくれ!あなたなら、できるはずだ!」

「…」

高坂の叫びに、リンネは冷笑を浮かべ、

「あなた以外は、向こうの世界の人間よ。帰りたいでしょうね。だけど、あなたは違うわ。この世界に残った方が、人間として幸せではないのかしら?」