退院の手続きを済ませて香織のお父さんの車に荷物を積み込み,一緒に同乗させてもらった。
家に着いても彼女は楽しそうに話をしていた。
病院生活がいかに退屈で,心細かったかが伝わってきた。
彼女は部屋に入ると,何だか落ち着きを取り戻し,ゆっくりとベッドに腰を下ろしてから顔を上げてこちらを向いてニッコリと笑った。
その時の笑顔の意味は今も判らないが,安心した時の笑顔では無かったような気がする。
思い過ごしかもしれないが,その時から彼女は大体の事を判っていたのかもしれない。
その笑顔を戸惑いながら見ていたら,足を組み返しながら彼女は,
『なぁ!浩志!
夏休みに遊べれへんかったから,今度の日曜日どっか行けへん?
うちなぁ,めっちゃ楽しみにしていた事があるんや。
うち,新しい水着買うててんや。
あれなぁ,一回も着てへんやんか?
そやから,今度の日曜日にな,プール行けへん?』
『うん。行きたいなぁ。』
『チョット今着てみようか?
浩,見たいやろ?』
『アホか!見たくないよ,こんな所で≪見たいけど≫。
あれは,海で着るもんやろ。≪ここでも良いけど≫』
言いながら,心の中で反対する自分がいた。
僕は、彼女の水着姿を見てみたかったが,隣りの部屋には両親も居るのに,そんな恐ろしい事は言えなかった。
彼女は残念そうに頷いたが,私の方が残念である。
暫くして彼女は何時の間にか居眠りを始めた。
これも病気の症状の一つみたいだ。
疲れ易い体になっているみたいだ。
免疫力は,血液の減少と共に下がって行くので仕方の無い事である。
彼女に布団を掛けてから,そぅっと部屋を出た。