「いや、彼氏ではないです」

聞こえないように、いずれそうなりますけどと付け足して言うと、彰さんは口を尖らせていた。

「緩奈にこんなイケメンがねぇ……。スゲーな、あいつ」

だから、まだ彼氏じゃないし。

そんな話をしていると、支度が終わったのか緩奈が下りてきた。

「お母さーん!! あたしのこの前買ったワンピース知ら……悠斗!?」

……気付くの遅すぎだろ。

俺を見つけると、なんでいるの!? とわめき散らしている緩奈。8時に来るって言ったのにな……。

「おはよう、中原さん。今日は生徒会の仕事で、せっかくの休日なのにごめんね。じゃあ、行こうか?」

表の俺で話すと、緩奈は必ず混乱する。
今だって、『中原さん? へっ?』とか言ってるし。

あいにく、緩奈のお母さんは気が利く人なのか、いってらっしゃいと見送ってくれた。

外へ出て、しばらく歩いた俺達。
もう緩奈の家は見えない。
ってことは、俺の素を出せる。

「お前さ、8時に行くからって、俺言ったよな?」

「い、言ったっけ?」

「言った」

バカだ、こいつ……。

向き直って緩奈を見ると、私服の緩奈は正直、色々ヤバかった。