「…あの時、仔猫と女の子が気になった俺は、女の子の後を追いかけて行った。
女の子のお母さんかな、(めい)って呼んだのが聞こえた。
めいって本当は、明るいっていう漢字1字で〝明〝(めい)って読むんだよね。」
ももの事で心が満たされ、杉崎くんの話題転換に乗り遅れ気味で、私は微かに頷いた。
私は〝明〝と書くこの名前が男の子みたいで嫌いだった。
〝あきら〝と呼ばれ、からかわれた事もあり、本当に嫌だった。
だから、名前を書く時は平仮名で〝めい〝と書くようにしている。
「俺、急いで表札見たよ。
めいの家の表札って家族全員の名前が書いてあるだろ?
〝明〝って見たときの衝撃はなかった。
全身鳥肌がたった。
神様がくれた運命だと思った。
俺の分身を見つけたような気分だった。
好きな子の名前が〝明〝で嬉しかった。
俺の父は、諸葛孔明が大好きで、本当は俺に、孔明って付けたかったらしいけど、母があまりにもそのままは…って言って、〝孔〝になったんだ。」
「……。」
「俺の(孔)とめいの(明)で孔明になる。」
私が大嫌いな名前を、大好きだと言ってくれる。
この名前が分身だと喜んでくれる。
━特別だとさえ言ってくれる。
両親に、この名前を付けてくれたことを感謝したい気持ちだった。
両親に対して、こんな気持ちになる事が出来るなんて、やっぱり、杉崎くんは、不思議な魔法をかける天才だ。

